巣作りの季節

2015年3月第2週

紅梅は満開になりましたが、白梅のほうはなかなか蕾が開かない。マンサクやサンシュユが、早くも炒り卵のような黄色い花をつけているにもかかわらず、です。例年なら一番手の梅が、今年はなんだか咲き渋っているみたい。

頭上にばかり気をとられていて、ふと足元に目をやるとあちらにもこちらにも水仙の芽が出ています。あらためて見回すと、縁先ではムスカリが青い花をつけ、福寿草もずいぶん背丈を伸ばしていました。毎日、薪を取るために出入りしていて、足元の変化には気づいていなかったんですね。わたしたちは身勝手なので、人間の目というのも自分の見たいものしか見ないようにできているのかも・・・。

欲望やら先入観を捨てた目になると、春はもっと近くに感じられるのかもしれません。そう思って家のぐるりを回ってみたら、椎茸の原木にいつの間にかキノコがぽつぽつ、ちいさなフキノトウも数個見つかりました。さっそくてんぷらでいただきましたが、春は目だけでなく舌先にも心地のいいもの。野菜セットにも、早くそんなお裾分けが入るといいですね。

陽光が強まるにつれ、カラスどもが騒がしくなってきました。たまに、枯れ草やら一本の小枝を奪い合っている姿も見かけますから、営巣がはじまっているのでしょう。ということは、キジやコジュケイもそろそろ卵を生むのかな。

カラスの巣は樹上にあるから問題ないのですが、キジやコジュケイは地面に直接茶碗を置いたような巣を作り、メスが卵をあたためます。侵入者に対してキジはオスが威嚇。これはかなりの迫力で突進してくるので、うちの犬など尻尾を巻いて逃げ帰ってきます。でも、オスが留守にしているときはメスが飛び立ってしまうので、卵を盗んできたりするのが頭痛の種。コジュケイやウズラの卵よりひとまわり大きいぐらいの、かわいらしい卵です。

コジュケイのオスはキジのように強くはないので、ひたすら逃げる。といっても、たた逃げるわけではありません。翼を引きずるようにばたつかせ、まるで傷ついた落ち武者のような逃げかたをするのです。これは擬態といわれているもので、侵入者が巣から十分に離れたところを見計らって飛び立つので、犬はすごすごと引き上げざるを得なくなる。昔飼っていた犬が一度だけ、そういう場面を見せてくれたことがありました。

キジもコジュケイも飛ぶことは飛べるけど、どちらも体が重いせいか、飛翔は得意ではありません。だから藪で営巣するのですが、中には遊歩道のすぐ脇にそれがあったりするので、春先の山歩きは狩猟シーズンが終わって気楽な反面、今度はこちらが加害者にならないよう、気をつけねばならなくなります。

麦畑ではヒバリも巣作りをはじめたんでしょうか。今年はじめて、あの陽気でにぎやかなヒバリたちのさえずりを耳にして、春めいた気分になって帰ってくると、あれだけ頑なに見えた白梅がほころびかけています。朝、新聞を取りに出たときには、たしかにかじかんでいたんですよ。ひょいとちいさな溝でも跨ぐように、春という桃色の気団に突入した気分でした。

今週の野菜とレシピ

春の訪れはうれしいのですが、八百屋にとっては頭の痛い季節になります。毎度おなじみの端境期。畑からは冬野菜がどんどん消えて行くのに、それを補う春野菜の生育が間に合わないからです。

これも旬野菜を扱っている以上、宿命のようなものかもしれませんが、野口さんのような援軍の力を借りながら、今年もなんとか乗り切る所存です。単調なメニューになりがちで申しわけありませんが、おつきあいください。

今週はメニューにはありませんが、たぶんフキノトウが入ると思います。なぜメニューにはないかというと、青山さん曰く、こういう自然のものは畑のものとちがってどれだけ採れるかわからない。だからメニューに載せられると、なにがなんでも採らなきゃならないというプレッシャーで胃が痛くなるんだそうです。フキノトウが入ってましたら、てんぷらにする、味噌汁の薬味にする、きざんでフキ味噌にするなどして、香りを堪能してください。