春爛漫

2015年4月第1週

今週の野菜セット

左から

春爛漫。山の中腹に見える白いかたまりは辛夷(こぶし)、黄色いのはダンコウバイかサンシュユでしょうか。道路わきではレンギョウがこぼれんばかりの花盛り。今週中には桜も開花しそうな勢いです。

モノクロの世界がいきなり総天然色になったかのよう・・・。総天然色という時代がかった言葉で思い出しましたが、昔のミュージカル映画って、ストーリー部分はモノクロで進行し、歌と踊りがはじまったとたん、総天然色になったそうです。経費の都合でそうなったんでしょうが、巧みに人の心理を突いてもいますよね。人も動植物も歌い出しそう、踊り出しそうな陽気です。

地面ではツクシ。毎朝、起床するなり顔も洗わず、庭先と畑の周囲をひとまわりして来るのですが、夕刻にはまた顔を出しています。まるで地面の中で押し合いへし合いしながら、地上に出るのを待っているかのよう・・・。見つけたら採らずにはいられない貧乏性ですから、一日中ツクシに振り回されているようです。ほんの一時期のことですけどね。

もうすぐコゴミも出てくるはずで、それが終わると今度はワラビやゼンマイ。春の幸との出会いは手間暇かけた野菜の収穫より、なぜか喜びも大きく、疲れ知らずになるのです。縄文人のDNAが騒ぐからでしょうか。たかが山菜採りに大げさな、と思われるかもしれませんが、生命のダイナミズムが春という季節のそれと共振するかのごとき躍動感があるのです。

そんな高揚感にさそわれて、ふらふらと山に入ったまま行方不明になる人が多いのもこの季節。山菜に気を取られているうちに、道を見失ってしまうんでしょうね。日に何度か消防署から、行方不明のお知らせが町中に響きわたります。グレーの上下を来た七十五歳の男性とか、作務衣姿の女性とか・・・。これまで他人事のように聞いていましたが、そのうちにわたしも彼ら、彼女たちの仲間入りをして、山の中をさすらうことになるのかもね。

火事が多いのもこの季節で、消防車のサイレンを耳にすることが多くなります。陽気のせいで気もそぞろになるのに加えて、空気が乾燥しているからでしょうか。しかも春先は風が強いので大火事になりやすい。消防団の面々はおちおち仕事もしてられないそうです。

消防署員とはちがって、消防団員というのは自分の仕事を持ちながら、いざというときには消火活動に参加する民間人のこと。このあたりでは部落ごとに人数が割り当てられていて、消防車とともに防火服が支給されますが、基本的には無給で各自治体からお小遣い程度の手当が出るのみ。それでも定期的な訓練は消防署員といっしょですし、もちろん火事現場では同等の働きをしなければなりません。

当然、なり手は農家か自営業の若手に限られるのですが、近所の二児のパパ曰く、おれ、花見って最初から最後までいたことないんだよな。かならずといっていいくらい、呼び出しがかかるからだそうで、それがわかっているから酒も飲めない。花見時だけでなく、深夜の火事でも顔を真っ赤にしたべろんべろんの隊員が混じっていてもよさそうですが、人命にかかわることなのでそれはない、とのこと。自分だけでなく、仲間をも危険にさらすことにもなるからでしょうね。

それにしても、こんなに責任重大な職務をですよ、ボランテイアに押しつけて涼しい顔をしている消防庁って、なんかおかしいでしょ。各市町村が当然しなくてはならない住民サービスを、補助金とひきかえに住民自治に任せているのとおなじ構造かも。消防団は戦前の自警団、市町村内の自治体は戦時中の隣組の延長線上にあると思ったら、うららかな陽気にもかかわらず、背中のあたりがうすら寒くなりそうです。いつまた戦時体制に入っても差し支えない、といわんばかりの鉄面皮がうようよしているご時世ですからね。この世の春も長くは続かないのかもしれません。

今週の野菜とレシピ

今週は愛媛の新玉葱が入ります。汗ばむような陽気の日には、オニオンサラダがおすすめ。スライスした玉葱に鰹節をかけ、酢:1、醤油:2のさっぱり味のソースでどうぞ。

玉葱の援軍に加えて、山形の寺島さんからも茎たち菜。これもかき菜とおなじく、あぶら菜の一種ですが、いちばんおいしい茎の部分が多いタイプ。かき菜も茎たち菜も、ほろ苦さと甘みの溶けだした、塩味のお吸いものが美味。さっと湯がいて辛子醤油和えも美味。とにかくこの時期、わたしたちの身体があぶら菜特有の苦みを求めているので、茹でて塩をふっただけでもおいしいく感じられます。しっかりデトックスして、これからの気温の変動に備えて体調を整えてくださいね。