一年中でいちばんい季節

2015年4月第5週

今週の野菜セット

左から

青みがかった冬色だった山肌が、木の芽がふくらんでくるにつれ赤みがさして、ほんわかと春めいたピンクに染まったかと思うと、ある日突然、それが一斉に新緑と化します。薄緑色に山の尾根がふくらんで、まるで入道雲のようにもくもくと大きくなりそうな勢いです。

毎年この時期になると、オズの魔法使いが日本列島を北上するのかもしれません。つややかな若葉のうつくしさは格別で、桜の花があんなに早く散ってしまうのも、新緑が相手では勝ち目がないからかも・・・。そんな山裾の新緑が田圃の水面で逆立ちをして、さざ波が立つたびに震えています。

スギやヒノキの花粉も一段落して、一年中でいちばん爽やかな季節になりました。森林浴もつややかな若葉の時期が最高ですから、連休中はぜひ、お近くの公園や植物園などをぶらついて、オズの魔法にかかってみてください。

五月に吹く風を薫風と呼びます。そこから連想されるのは、新緑の中を通り抜けてきた風が、そこら中に咲き乱れた花の香もいっしょに運んでくるようなイメージですが、田舎ではもっと強烈な臭いを運んで来ます。それはこの時期になると酪農家が飼料用のトウモロコシを作るため、広大な畑に牛の糞尿をばらまくから。風向きや家の場所によっては、窓を閉めていても臭いに悩まされるそうです。

でも、牛の糞尿という産業廃棄物を再利用して牛の飼料作りをするのですから、これにはだれも文句はいえません。耕耘機が入って、土壌と一体化させると臭いはだいぶ落ち着いて、発芽したトウモロコシが十センチぐらいになるころには、ほとんど無臭になりますしね。ただ、このゴールデンウィークをはさんだ半月ほどの期間が、周辺の住人には耐えがたいものになる。食欲も減退するほどだそうです。

さいわいわが家は斜面の中腹にあるので、そんな心配はありませんが、散歩中にはいたるところで糞尿の小山と遭遇します。牛の排泄物ですから、少量であればそれほど臭いものではなく、むしろなんとなく懐かしいぐらいのものですが、山と積まれたものの間近に来ると、さすがにきついというか、くらっとなりそう・・・。

ところが犬はどんな犬種でも、ほとんど例外なくこの臭いが好きなんですね。飼い主の悲鳴をよそに、身体中にそれをなすりつけようとするのです。うちの犬も頭を地面につけるようにして、耳の後ろから首にかけて、重点的につけてましたから、香水やオーデコロンをつける部位というのは、犬も人間もおなじなんだなあ、と妙なところで感心したものです。

とはいっても、わたしは香水のきつい人が苦手なら、牛糞をなすりつけた犬もあまり好きではないので、帰ったらすぐに風呂場に直行しましたけどね。うちの犬は風呂もシャワーも苦手なので、どうやらそれをお仕置きと勘違いしたらしく、ぴたりと糞尿の山に近寄らなくなりました。ほっとしましたが、犬にしてみればとっておきの香水を我慢して、人間とおなじ布団で寝るのと、好き勝手にして戸外で寝るのと、どっちがほんとの仕合わせなのか、ちょっと考えさせられました。

今年も試練の時期になり、糞尿の山の脇を素知らぬ顔で通りすぎる犬を見ながら、あのときは風呂場につれて行くにも、身体を洗うにも、知らず知らず力が入ってたんだろうな、などと苦々しく思い出しているしだい。一年中でいちばんいい季節なんですけどねえ。

今週の野菜とレシピ

今週はタケノコが入る予定ですが、そのタケノコが空前絶後といってもいいほど大不作。なにせ一町歩もある海老原家の竹藪に、十本前後しか頭を出してない状態なんだそうです。一町歩といえば三千坪ですから、どれくらいの広さかというと、わたしにもよくわかりませんが、歩きまわるだけでもけっこうたいへんだったという記憶があります。

海老原家のタケノコはアクがなく、やわらかいと定評があるらしく、どこかの業者がごっそり掘り出して持ち帰ってしまう。その残りが毎年、野菜セットに入っていたといってもいいぐらいですが、今年は泥棒にも見放されるほどなにもないそうです。二十年ちかく前にもタケノコ不作の年があり、そのときは米も凶作なるといったらほんとうにその通りになってしまいましたが、今年はそれ以上に深刻みたい。米だけでなく、夏野菜全般に影響があるんじゃないか、それとも災害?などと今から心配しています。

さて、タケノコですが、例年のように大きなものをお届けできる自信がありません。そこでタケノコが小ぶりでも、みんなで味わっていただけるよう、かんぴょうもメニューに加えさせていただきました。

まず、タケノコを添付の米ぬか、唐辛子といっしょに湯がきます。竹串がすっと通るぐらいになったら火を止めて、そのまま冷まします。粗熱がとれたら、きれいな水にさらしてください。

タケノコの穂先はワカメといっしょに若竹汁。真ん中から下はちいさく切って、もどしたかんぴょう、干し椎茸といっしょに味醂と醤油で煮て、炊きたてご飯に混ぜてください。但し、無漂白のかんぴょうはすぐにやわらかくなるので、あまり長く煮ているととろけてしまうかもしれません。途中から加えてくださいね。

タケノコの姫皮を細切りにして、市販のハムの細切りといっしょにかき揚げにすると意外においしいので、これも捨てないでご利用ください。揚げたてにぱらぱらと塩をふってどうぞ。

どうしてもタケノコが入れられない場合には、申しわけありませんが代品が入ります。何十年に一度の凶事なのでお許しください。