啓蟄

2015年3月第1週

今週の野菜セット

左から

路上で突然馥郁たる香りに包まれて、はっとする季節になりました。もう紅梅が満開になっているのです。厳寒の最中に臘梅が咲き、その細工物のような姿に似合わぬ濃厚な香りをあたりに放ちますが、それよりも紅梅の香りはもうすこし控えめで、まるでささやくように春がちかいことを告げているかのよう・・・。

白梅も蕾をまん丸に膨らませて、もうひと雨かふた雨降ればほどけ出しそうな気配です。雪になればまたかじかんでしまうのでしょうが、白梅の開花がはじまると、どこからともなくウグイスが飛来して、毎度おなじみ、さえずりの練習がはじまります。マンネリ化したシナリオですが、こういうマンネリは何百回、何千回繰り返されても陳腐にならない。できることなら、未来永劫続いてほしいものだと思います。

今月六日は啓蟄で、地中にいる動物たちにも春の手が伸びてきます。でも、いくら春だといわれても、地表はまだまだ寒くて、朝方には凍ったりしています。虫たちには通勤も通学も、煩わしい義務などなにもないのに、起きろといわれても困るんでしょうけどね。

啓蟄というのは、地球の波動が強くなるにつれ、地球の中心部から発せられる低周波も強くなるから起こる現象で、どこかで地下鉄工事でもしているみたいにドーン、ドーンと地響きがするので、カエルもヘビも虫たちもおちおち寝ていられなくなるのです。かといって起き出すには寒いので、寝ぼけ眼のまま、騒音や震動から逃れるように地表近くに出てくるわけです。

そして気の毒なことに、この時期になると待ってましたとばかり、冬の間放置されていた田畑に耕耘機が入るようになるんですね。耕耘機の後をカラスが群れて歩く姿はかわいいけど、夢見心地のまま堀り起こされるや、間髪を入れず食べられてしまうカエルたちが哀れです。それでも田圃に水が入るころになると、あれだけカエルの声がにぎやかになるのですから、みんながみんな食べられてしまうわけではないのでしょうが・・・。

啓蟄のようなものがあるおかげで、わたしたちの住処である地球もまた生きものであるというのがよくわかります。

そしてこの時期に地球がもっともエネルギッシュになるということは、これから迎える春という季節がいかにエネルギーを消耗するか、いかに過酷な労苦を地球に強いているかがわかるような気がします。植物を次から次と芽吹かせるのも地中のエネルギーですから、その最初にかかる力。生命の循環システムを始動させるときの「よいしょ」にかかる力は、それこそ地球の重量に匹敵するぐらいすごいものなんだろうな、と思いました。

動き出してしまえば、あとはほんのちょっとの力さえあれば惰性で流れてゆきますから、太陽がもっともエネルギッシュに見える夏など、地球も頑張っているように見えるけど、じつは木陰で昼寝なんかしてたりして・・・。そして秋が深まるにつれ脱力していって、今度は昼寝ではなく、ほんとにパジャマに着替えてしまうのかもしれません。もっともそのころには、もう一方の半球ではもっともエネルギッシュにならねばならないんですけどね。

「地球にやさしく」なんていうキャッチコピーは嫌みなものですが、こんな風に地球が一年を過ごしている中で、わたしたちもまた雑事に追われながら暮らしていると思うと、地球も人も虫たちも動植物もみんないっしょ。ひとかたまりの生命体なんだと思うと、地球をはじめ、生きとし生けるものすべてにやさしくなれそうな気がします。気がするだけでなく、意識的にやさしさパワーを充満させて、世の中に蔓延しつつあるとげとげした気分をやわらげてゆきたいものです。

今週の野菜とレシピ

ようやく自然薯が出てきました。不自然な曲がりかたをした自然薯は(もっともこれが自然なんですけど)皮を剥くのがたいへんなので、ひげ根をガスの火で焼き切ってから、タワシなどで軽くこすりながら水洗いしてください。

それを摺りおろし、溶き卵と出汁を加えたのがとろろ汁ですが、ただ水だけで薄めたところにそば粉を加え、そばがきにしても美味。ただしそばがきにするときは、だいたい一人分:自然薯は4~5センチもあれば十分ですから、大量におろしすぎないようにしてくださいね。ゆるめに練ったものをすいとんみたいに具だくさんの汁に入れてもよし、しっかり練ったものをかたまりのまま湯がき、ワサビ醤油で食してもよし。蕎麦打ちはそう簡単にはゆきませんが、そばがきなら素人でも簡単に作れるのでお試しください。

赤かぶはもう終了したのかと思いましたが、どっこい畑で生きていました。しょうがない、またひと肌脱いでスライスし、塩もみして漬けておきましょう。大きいかぶはスが入っていることがありますが、そういうときは中心部だけを除いてお使いください。