秋の香り

2015年10月第2週

いろんなところから金木犀が香ってきます。芳香が鼻をかすめてあたりを見回すと、おもわぬところにそれがあったりするんですね。さすがに山の中では見かけませんが、人家がまばらになったあたりでも、たまたま幸運なこぼれ種が生長したらしく、ひっそりと香りを放っていることがあります。

それとは反対に刺激的な残り香にも、この時期になるといろんなところで遭遇するようになります。車の往来があるようなところでも、けっこうあちこちにそんな臭いが漂っています。柿が熟しはじめるとタヌキが山から下りてくるので、朝のうちはその体臭が残っているというわけです。わたしはけっこう好きなんですけどね。

陽が高くなるころには消えてしまいますが、それをタヌキのものだとは気づかない人も多く、犬・猫のおしっこの臭いと思いこんでいる人がいれば、ペットのスカンクが逃げ出したなんて、とんでもない発想をする人もいて・・・。実際、アメリカの田舎道を走っていると、たまに野生のスカンクが轢かれていることがあり、そのわきを通ると一瞬にして車内におなじ臭いが充満するんだそうです。

スカンク恐るべし。でも、交通事故の犠牲になったりするところを見ると、あちらではタヌキみたいにポピュラーな存在なのかもしれません。このあたりでも寒くなると、路上に横たわっているタヌキをよく見かけるようになります。山の中に食べるものがなくなるからでしょうが、ハクビシンもイノシシもキツネもいるのに、どうしてタヌキばかりが轢かれるんでしょう。もっともイノシシなんかと衝突したら、こっちも無事ではすまないのでしょうが・・・。

先日の大風で、栗もどんぐりもみんな地面に叩きつけられ、色づきはじめていた柿もけっこうな量が落とされました。北海道のりんごの被害にくらべたら、申しわけないほど些細なものですが、ハクビシンとタヌキとわたしが虎視眈々と狙っている柿ですから、ひと粒たりとは無駄にしたくないのです。

今朝見たら、その柿の枝の一本が大きくたわんで、途中から折れていました。昨日、ほどよく色づいた柿を眺め、明日あたりあれとあれを・・・なんて思っていたときはなんともなかったんですよ。それがまあ、あられもない姿にされて、折れた枝とともに宙ぶらりんになった柿が十数個。くっそー、なんていってはいけないのに、いっちゃいました。

タヌキは犬科で唯一鋭い爪を持ち、木に登ることができます。ハクビシンはジャコウネコ科ですから、木登りなんかお茶の子さいさい。さて、どっちが犯人かというと、これはいうまでもなくハクビシンのほう。タヌキもハクビシンも猫ぐらいの大きさですから、かなり無理をして枝先の柿を狙ったところで、一匹だけなら枝が折れるなんてことは考えられません。いくら柿の木が折れやすいといっても、直径が五センチちかくもある枝が折れるには、それ相応の重みがかかっていたはず。

タヌキは孤高のハンターですからね。子供がちいさいうちは連れて歩くことはあっても、生長したら親子といえども群れたりしない。こんなことがなくてもタヌキ贔屓で、タヌキのために柿を何本も植えているぐらいなのに、最近は増える一方のハクビシンに生育場所まで侵されているみたいです。がんばれ、タヌキ。外来種なんかに負けるなよ。